2010年09月16日
秋刀魚考
秋刀魚の話をしていて友人から教えてもらった、秋刀魚の歌
「秋刀魚の歌」 佐藤春夫
あはれ 秋風よ 情(こころ)あらば伝えてよ
――男ありて 今日の夕餉に ひとり さんまを食(くら)ひて 思ひにふける と。
さんま、さんま、 そが上に青き蜜柑の酸をしたたらせて
さんまを食ふはその男がふる里のならひなり。
そのならひをあやしみなつかしみて女は
いくたびか青き蜜柑をもぎ来て夕餉にむかひけむ。
あはれ、人に捨てられんとする人妻と
妻にそむかれたる男と食卓にむかへば、
愛うすき父を持ちし女の児は 小さな箸をあやつりなやみつつ
父ならぬ男にさんまの腸をくれむと言ふにあらずや。
あはれ 秋風よ 汝(なれ)こそは見つらめ
世のつねならぬかの団欒(まどゐ)を。
いかに 秋風よ いとせめて
証せよ かの一ときの団欒ゆめに非ずと。
あはれ 秋風よ 情あらば伝えてよ、
夫を失はざりし妻と 父を失はざりし幼児(をさなご)とに伝えてよ
――男ありて 今日の夕餉に ひとり さんまを食ひて
涙をながす と。
さんま、さんま、 さんま苦いか塩っぱいか。
そが上に熱き涙をしたたらせて さんまを食ふはいづこの里のならひぞや。
あはれ げにそは問はましくをかし。
と、秋の宵、秋刀魚を肴に酒酌み交わす男どもの戯言でした。
「秋刀魚の歌」 佐藤春夫
あはれ 秋風よ 情(こころ)あらば伝えてよ
――男ありて 今日の夕餉に ひとり さんまを食(くら)ひて 思ひにふける と。
さんま、さんま、 そが上に青き蜜柑の酸をしたたらせて
さんまを食ふはその男がふる里のならひなり。
そのならひをあやしみなつかしみて女は
いくたびか青き蜜柑をもぎ来て夕餉にむかひけむ。
あはれ、人に捨てられんとする人妻と
妻にそむかれたる男と食卓にむかへば、
愛うすき父を持ちし女の児は 小さな箸をあやつりなやみつつ
父ならぬ男にさんまの腸をくれむと言ふにあらずや。
あはれ 秋風よ 汝(なれ)こそは見つらめ
世のつねならぬかの団欒(まどゐ)を。
いかに 秋風よ いとせめて
証せよ かの一ときの団欒ゆめに非ずと。
あはれ 秋風よ 情あらば伝えてよ、
夫を失はざりし妻と 父を失はざりし幼児(をさなご)とに伝えてよ
――男ありて 今日の夕餉に ひとり さんまを食ひて
涙をながす と。
さんま、さんま、 さんま苦いか塩っぱいか。
そが上に熱き涙をしたたらせて さんまを食ふはいづこの里のならひぞや。
あはれ げにそは問はましくをかし。
と、秋の宵、秋刀魚を肴に酒酌み交わす男どもの戯言でした。